小学生から始める “キャリア教育” | Essential Education Center

小学生から始める “キャリア教育”

以前、『進路指導や就職支援だけが “キャリア教育”ではない 』というブログでは、主に「キャリア教育とは何か?」といった内容を書きました。

今回は、小学校の指導要領からすでに“キャリア教育”が明記されるようになったという意外な事実や、具体的な実践例などをご紹介していきます。

キャリア教育の背景

キャリア教育の始まり

キャリア教育が最初に提唱されたのは1999年で、当初はニート・フリーター対策として提唱されました。その後、2005年度から中学校の職場体験活動に集中的に予算が組まれ、ニート・フリーター対策としての大きな方向性は維持されながらも、職場体験活動の焦点化が図られました。 

この中学校での職場体験活動が広まった背景のひとつには阪神淡路大震災という悲しい出来事があります。この地震で負った子どもたちの大きな心の傷が、数年経って問題行動として表面化してきたのです。例えば、不登校や教室の荒れ、校内暴力などが起き先生方を悩ませていました。

そこで、1998年度、兵庫県教育委員会が地域社会全体で子どもを育てるために始めたのが「トライやる・ウィーク」です。これは、連続5日間の職場体験・福祉体験・勤労生産活動などの地域での体験活動を通じて、働くことの意義や楽しさを実感したり、社会の一員としての自覚を高めるなど、生徒一人一人が “自分の生き方” を見つけられるよう支援することを目的とするもので、兵庫県では現在も継続されています。「トライやる・ウィーク」では、大人と同じ職場で働くことで自信が芽生えるのか、課題であった不登校や教室の荒れなどは減ったそうです。

私も実際に兵庫県で「トライやる・ウィーク」を受け入れたことがあります。生徒たちが非常に楽しそうに、そして少し大人に近づけているような誇らし気な様子だったことを覚えています。

この兵庫県での成功例を全国展開しようとしたのが,2005年度に開始された中学校の職場体験活動のキャーンペーン「キャリア・スタート・ウィーク」になります。

キャリア教育で育むもの

さて、日本の教育において、“キャリア教育”では、何を目指し何を育もうとしているのでしょうか。2011年に発行された「小学校キャリア教育の手引き(改訂版)」に小学校・中学校・高等学校の「キャリア発達課題」というものが掲載されています。これは、児童生徒の発達の段階を視野に入れた上で、小学校・中学校・高等学校の各校種におけるキャリア教育の課題をまとめたものです。この手引きに沿ってご紹介していきます。

小学校におけるキャリア教育のねらい

小学校の ねらい は『進路の探索・選択にかかる基盤形成』です。小学校では,高等学校や中学校とは異なり、未来へのイメージを広げることを大切にしていきます。例えば,「プロスポーツ選手になりたい」という子がいたら、「なんでプロスポーツ選手になりたいの」と聞いてあげて、そこで「スポーツが好きだから」と返ってきたら,「スポーツに関わる仕事は他にどんなものがあるかな」とイメージを膨らませるための支援をする。

そういう視野の広がりを経ながら、学級活動や学校行事をはじめ、様々な教育活動の中で「人と一緒に物事にい取り組むって面白い」、「仕事ってワクワクするな」、「本気で頑張った後はスッキリするんだ」など、より基本的なことに関する子どもの実感を伴う理解を深めることが小学校のキャリア教育なんです。

この時に大事なポイントは子ども自身が考えたり感じたりすることです。大人から一方的に情報のシャワーを浴びせても、「頑張ったからスッキリしたでしょ?」と言っても、あまり子ども自身の身にならないと考えます。

中学校におけるキャリア教育のねらい

中学校の ねらい は、『現実的選択と暫定的選択』です。例えば、職場体験では,幼稚園や花屋さんなど様々な職場に行きます。ですが、中学生は必ずしも幼稚園の先生になりたいから幼稚園にいくわけではないし、花屋さんになりたい生徒だけが花屋さんに行くわけではありません。このように、将来との結びつきをそれほど強くは考えなくとも、暫定的に決めて体験することで、職業観や勤労観を形成させることが中学校の ねらい になります。

高等学校におけるキャリア教育のねらい

高等学校の ねらい は『現実的探索・試行と社会的移行準備』です。自分の進路について、ある程度具体的に方向性を決めて、その進路に関する知識を深めるなどして社会や職業への移行の下準備を行うということです。

自分らしく生きるための『基礎的・汎用的能力』

各校種の ねらい を見てみると、一見「職業」や「進路」に捉われているように思いますが、上記のねらいと合わせて 『基礎的・汎用的能力』という“自分らしく生きるため”の力として提唱されているものをご紹介します。

人間関係形成・社会形成能力

多様な他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の 考えを正確に伝えることができるとともに、自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たしつつ他者と協力・協働して社会に参画し、今後の社会を積極的に形成することができる力

自己理解・自己管理能力

自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について、社会との相互関係を保ちつつ、今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると同時に、自らの思考や感情を理し、かつ、今後の成長のために進んで学ぼうとする力

課題対応能力

仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決することができる力

キャリアプランニング能力

「働くこと」の意義を理解し、自らが果たすべき様々な立場や役割との関連を踏まえて「働くこと」を位置づけ、多様な生き方に関する様々な情報を適切に取捨選択活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力

出典:「小学校キャリア教育の手引き(改訂版)」(文部科学省)

出典:「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(文部科学省)

キャリア教育の実践例

小学校でのキャリア教育実践例

岡山県「夢や希望を持たせるアイディア」

岡山県では中学進学後に挫折感を味わう卒業生が多くいたことから、困難な状況になっても諦めず、夢を持ってがんばれる児童を育てたいという「夢への授業」という授業を行っています。
例えば、
・夢をつかむ計画表 明日へのステップを作成
・6年生の最後の参観日で児童が自分の「夢作文」を発表
・校内テレビ番組製作:こんにちは、『スペシャルタイム』の時間です
など小学6年生に将来の夢と希望を意識させ意欲的に取り組む内容が充実しています。
 
参考:岡山県 キャリア教育 実践事例

弊社が行なっている小学生向けのプログラムでも、自己実現へ向かうことができる「あきらめない力」「自分たちの力でやり遂げる力」「自分や他者の感情へ目を向ける」などを目的に体験を通して力を育んでいます。

中学校でのキャリア教育実践例

価値観マップの作成

価値観マップとは、自分が何を大切にして、どのように生きていきたいかを考えるベースになる人生の地図のようなものです。

価値観マップを作ることで、自分の人生を生きるための軸が見えてくるので、やりたいことが見つからなかったり、進路に迷ったりしている子どもたちも自分の将来について考えやすくなります。

価値観をマップ作成する際は、

  •   自分にとっての幸せとは?
  •   何を大切にしているか?
  •   何をどうしたくて今ここにいるか?
  •   人生のやりたい30のこと

これらの項目について、マインドマップを作っていくという活動です。

「何をどうしたくて今ここにいるのか」の項目は、中学生の時点で考えにくいかもしれないので、他の項目に差し替え活動をするとスムーズかもしれません。

また、項目が書き終わったら、グループで質問をしあい、さらに自分の考えを深くしていくのがおすすめです。

価値観マップは、キャリア教育の1時間目に実践すると自分の将来について考えるきっかけになるので、その後の授業に主体的に取り組むきっかけになります。どの学年でも実践できるので、学年ごとに価値観マップを作って比較するのも面白いですね。

このほかにも、マンダラシート作成や、20歳の自分をイメージして年表を作るなどの実践もあります。

参考:https://senpaitalk.com/carrereducation-junior/

弊社でも、同じようなワークを用いたプログラムを実施しています。特に、個人チャレンジ(ソロハイク、ロッククライミングなど)と合わせてワークシートを使うことで、より深い自己理解や未来想像へ繋がります。

高等学校におけるキャリア教育実践例

麴町学園女子高等学校

麹町学園女子高校は、100年以上の歴史を持つ中高一貫の女子高校です。

同校のキャリア教育の取組みの一つが「みらい科」です。社会に対応するための力を養うために、中学1年生から高校2年生まで5年間かけた指導を行っています。取組み内容は生徒の年次ごとに難易度が上がるようになっており、中学生期には戦争経験のあるOGの講話や、職業インタビュー、職場体験などが実施されます。

そして高校時には、地元企業とのコラボ商品開発や学園祭のイベント企画など社会人の疑似的に体験できる活動が実施されています。

また5年間の集大成として行われるのが「みらい論文」です。生徒は何でも自分の好きなことをテーマに論文の執筆を行います。この論文をきっかけに、自分の興味のある分野に気づき大学の学部選びに役立てた生徒も少なくないそうです。

このように麹町学園女子高校のキャリア教育は、生徒の興味・関心を引き出しキャリアについて主体的に考えるきっかけを作った事例だと言えるでしょう。

参照:リクルート進学総研『思考し体験するキャリア教育 「みらい科」で継続的に学び「みらい論文」で興味関心を問う

弊社では、特に高校のタイミングでは進路や職業からダイレクトに考えるよりも、「“どんな”職業に興味があるか」ということから考えることも大事な要素であると考えます。(例:人を笑顔にする仕事、人に感動を与える仕事など)そうすることで、進学することや就職することという行為そのものがゴールではなく、その先の意義を見つけることができ、より“自分らしく生きる”ことへ繋がります。

キャリア教育の課題

キャリアパスポート

 ここまで、小中高各校種の実践例をお伝えしてきました。私は、ここからが“キャリア教育”の課題であると考えています。それは、この各校種の連携があまりなされていないと感じることです。もちろん、学校毎や自治体ごとに連携に取り組まれているところもあります。また、文部科学省でも『キャリアパスポート』というものの導入を進めています。キャリアパスポートとは、これまで記入してきたワークシートなどをファイリングしたものです。先生にとっては、進級、進学しても児童生徒が何を感じ考え、何を学んできたのかを知るためのものです。もちろん児童生徒本人も、数年かけて綴った“自己分析”を手軽に見返すことができるなど、メリットがたくさんあります。

個別最適化

また、キャリアパスポートがあることで、個人の成熟度に合った関わり方ができるとも言えます。教科教育も個別最適化や選択授業など、個人の進度、思考の仕方に合わせた設計になってきていますが、“キャリア教育”もまた、個人に合わせた関わりができると良いですね。

ちなみに、アメリカでは大人でも週に一回カウンセリングを受けるなど、個別に話をしたりコーチングをしてもらう文化があります。学校にもその文化があり、スクールカウンセラーが常駐しています。日本の進路指導の先生の役割は「生徒を職場、労働、仕事に結びつけること」です。一方、アメリカのスクールカウンセラーは生徒を学校の中でキャリアへの道筋と結びつけることで、「生徒が仕事やキャリアへと歩めるようにすること」が役割です。具体的にはキャリアプランの作成、キャリアに向けた準備、キャリアの探索、トレーニングといった面で生徒たちの手助けをします。スクールカウンセラーは生徒の関心、適性、あるいはキャリアのゴール、ニーズといったものを踏まえてさまざまな専門の技術教育や指導、カウンセリングを行います。

大人に求められること

アメリカのスクールカウンセラーのように、個別重視の関わりをしていくと、必ず十人十色の選択が出てくることでしょう。その時、大人に求められることは、子どもをリスペクトし、子どもたちの多様性を受け止めることではないでしょうか。親が思っていた進路選択ではなく「中学卒業したら働きたい」と言ってきた時、一貫校だけど「違う高校へ進学したい」と言ってきた時、あなただったら、どうしますか?

キャリア教育に対する私の願い

個人的な願いとしては、(対象年齢、状況にもよりますが)基本的には、大人は「見守って応援する」存在であって欲しいと思っています。特に中高生の時はそうであって欲しいので、それまでに、子どもから信頼される(大人が何もしなくても「見守ってくれている」と子どもに感じて貰える)関係性を築いていたいですね。そうすることで、子どもも思いっきり挑戦できるのではないかと思います。

また、先が見通せない時代だと言われ続けています。それは大人も一緒です。子どもが生きる将来について確実な情報は誰も持っていません。だからこそ、大人が自分の価値観や自分の経験だけで一方的に教えるのではなく、子どもと一緒に考えて、お互いがワクワクするような将来を描けると良いなと心から願います。(もちろん大人が経験から得たことや失敗からどうやって立ち直ったっか、など人生の先輩として伝えられることは沢山伝えてあげて下さいね)

この記事を書いた人

副島理恵子(Rieko,SOEJIMA)
有限会社エッセンシャルエデュケーションセンター EE事業部ディレクター。長崎純心大学在学中は、社会福祉の分野を専攻しながら、野外教育の指導ボランティアを経験。大学卒業後、本格的に野外教育の世界へ。1989年長崎県出身。

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